今回は、事業承継の失敗事例について解説します。このチャンネルをご覧の方々の中にも、日本企業には、「同族経営」の企業が多く、ファミリービジネスの経営が素晴らしい、子どもを後継者にする親族内承継が理想的だと思っておられる方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ファミリービジネスの経営者が、家族を犠牲にして事業承継に失敗してしまった事例について、公認会計士がわかりやすく解説いたします。ぜひ最後までご視聴ください。


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同族企業

岸田先生、ファミリービジネスの経営が注目されていますが、ファミリービジネスとは何でしょうか。





世界的に見ると、有名企業の中にも、上場する前は同族企業であった企業が数多く存在しています。例えば、アメリカでも、小売店のウォルマートは、昔はウォルトン一族の同族企業でしたし、自動車のフォードも、昔はフォード一族の同族企業でした。日本の上場企業にも、同族企業から成長した企業が多く見られます。



私たちがイメージするよりも多くの同族企業が存在しているのですね。





従来の経営学では、同族経営は古いガバナンス体制と見られることが多く、「お家騒動」や「能力不足の息子の世襲」などのリスクが指摘されていました。現在の経営学におけるコーポレート・ガバナンスの議論では、企業は成長する過程で、所有と経営の分離を進めるべきだという考えが主流です。しかし、同族企業の業績が、非同族企業の業績を上回っているという見解もあります。



同族企業の業績が良いのは、創業家の支配力が影響しているというわけでしょうか?非上場のサントリーが鳥井家のファミリービジネスになっていて、鳥井家の支配力によって経営されていることは理解できますが、株式上場した後でも、創業家の支配力を維持することはできるのですか?



もちろん株式上場することによって一般投資家が株主になるから、創業家の支配力を完全に維持することはできないよね。しかし、創業家が築いてきた企業風土や経営理念を通じて影響力を持ち続けることは可能なんだよ。上場企業であってもカリスマ社長が経営をリードしているケースはあるだろう。例えば、トヨタ自動車の豊田家、ブリヂストンの石橋家などが有名だよね。



同族企業の業績が、非同族企業の業績を上回っているというのは、具体的にどういう意味なのでしょうか?





業績をどのように測定するか難しい話だけれど、自己資本利益率や利益の成長率などで同族企業の業績のほうが高いという意見が出ているんだ。これは、同族企業では創業家が大口株主として居座っていることで、「株主の利害」と「経営者の利害」の衝突が起きにくく、経営者にガバナンスを効かせやすいこと、短期的な利益よりも、長期的な繁栄を目指して、ブレない経営戦略を取りやすいこと、創業家が持っているブランドや知名度、世界的な人脈が、企業価値向上に貢献できることなどの長所があるからなんだね。



創業家による同族経営を続けようとする場合、親族内での事業承継を行うことが必要ですよね?この点は大丈夫なのでしょうか?



同族企業であれば、現経営者の子どもである後継者は、小さいときから経営者として働く父親の背中を見て育ってきているよね。そのため、経営の細かい内実はわからないにせよ、従業員や取引先を大切にする気持ちや、経営者としての責任感などを体感していて、将来自分が経営者になること当然だと考えているんだ。だから、事業承継も親から子どもにスムーズに行われるんだよ。



しかし、経営者としての能力がない子どもを後継者として、事業承継に失敗してしまうケースがあるとも言われています。
事業承継の失敗事例



そうだね、失敗事例もたくさんあるんだよ。私がよく見るのは、親子関係がうまくいっていないことが原因の失敗事例なんだ。



経営者の親とその子どもという関係ですね?



経営者は猛烈に忙しいから、子どもと一緒に過ごす時間を十分にとることができないことが多いんだ。あまりの忙しさから、「会話どころか、寝顔しか見ることができなかった」とか、「休日も、どこにも連れていってやれなかった」、「入学式や運動会などのイベントにも参加できなかった」とおっしゃる経営者がたくさんいるんだよ。



そんなに忙しいんですか?ぜんぜん子育てしていませんね。





実は、こうした生活に後悔する経営者がとても多いんだよ。日本政策金融公庫の「2020年度新規開業実態調査」によれば、起業する人の平均年齢は43歳で、この年齢が上昇傾向にあるんだ。40代といえば、子育て真っ只中の時期だよね。育児には手はかかるけれど、我が子が日々成長していく姿を見るのは、親にとって生きる糧ともいえるはずだよ。それでも、起業したての頃は多くの場合、経営も不安定で、経営者は休む暇もなく働かなくてはいけない時期だ。





家族と一緒に過ごす時間が取れないのも当然で、数年あるいは十数年が経ってやっと軌道に乗ってきたという状況になり、ようやく家族と一緒に過ごしたいと思っても、奥さんや子どもとの間には、心理的な溝ができていることに気づき、寂しい老後生活を送ることになったと後悔される話も実際によく聞くよ。



仕事で成功できたとしても、家族を犠牲にしてきたということですね。老後に寂しい生活が待っていそうですね。



このように家族を犠牲にして働いてきた経営者にかぎって、「これまで会社第一の人生を送ってきたから、これからは子どもの幸せを考えたい」とか、「価値ある事業を子どもに継がせたい」と思うんだよね。しかし、子どもの頃に父親との関係が希薄だった人は、社交性や協調性、自己肯定感や自信に欠ける人が多く、後継者としようと思っても、経営者に不可欠なリーダーシップを発揮できない人であるケースが多いんだ。



親子の世襲を批判されるときは、リーダーシップのない後継者であるケースが多いですよね。



そうだね。事業承継に成功しても、その後の事業の存続に失敗することになり、優良企業を倒産させてしまうケースもあるね。このように、後継者に対して何も準備しないまま「親族」という理由だけで後継者を選ぶのは、失敗を招くんだ。これは単純に経営者教育をしろという意味ではなく、ファミリービジネスを継続させるためには、父親と子どもという親子関係も重要だということなんだよ。



育児など子どもの世話もして、家族を大切にすることは、経営者にとっての仕事の一つでもあるんですね。
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