今回は、地方銀行が販売する仕組債について解説します。このチャンネルをご覧の方々の中にも、外資系金融機関が販売する仕組債を買いたい、IFAから利回りの高い仕組債があると勧められたけれど、私も買ってみようかと関心を持っている人が多いのではないでしょうか。そこで今回は、地方銀行が販売する仕組債の問題点について、公認会計士がわかりやすく解説いたします。ぜひ最後までご視聴ください。


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地方銀行における仕組債販売の問題

岸田先生、最近、新聞やニュースで、仕組債が問題となっていますが、これはどのような問題なのでしょうか。



地方銀行は、ゼロ金利が続くなかで、貸出金の利息収入の減少に悩んでいて、そこの銀行員たちは、収益目標を達成できずに苦しんでいたんだ。そこで着目したのが、仕組債の販売なんだね。



なぜ仕組債に着目したのですか?





とても手数料の高い商品だったからだね。しかも、早期償還する条件なんかが付いていて、早期償還した仕組み債を再び販売して、重ねて手数料を稼ぐこともできたんだ。銀行員から、「収益効率がいい商品だった」と言われていたようだね。



なぜ銀行員が債券を販売しようとするのですか?債券は証券会社が販売する商品ですよね?



どこの銀行にも、子会社や兄弟会社に証券会社があって、グループの証券会社が獲得する手数料収益を、内部管理上の収益として計上しているんだ。銀行員にとっては、手数料収益が業績評価やノルマの指標となるんだね。



儲かる商品だということですね。それを販売することで、何が問題となるのでしょうか?



仕組み債は、デリバティブを使った複雑な債券なんだ。表向きの利回りは高く見えても、オプション取引を使うため、特定の株式や外国為替が急変動した際に大きな損失を被る可能性があるんだよ。こんな商品は、もともとはプロ向けに開発されていて、投資経験やデリバティブの知識を持っている顧客を対象とするものだったんだ。



もう少し詳しく聞かせてください。なぜそのような債券を買おうとする個人投資家がいるのですか?そもそも債券は比較的安全性が高いはずなのに、どうして大きな損失が発生するのですか。





仕組債の利回りが高いからだよ。低金利の時代に8%とか10%といった高い利率が付けられていたからなんだよ。個人向けの仕組み債では、アメリカのテスラやエヌビディアなどのハイテク企業の株価に連動する他社株転換債が人気だったね。これは、連動する個別銘柄の株価が、あらかじめ設定した低い価格を下回ると、その分だけ債券の元本が削られて元本割れするというものなんだ。逆に、あらかじめ設定した高い価格を上回ると、高い利息を十分もらうことができないうちに早期償還されてしまうという条件がついているんだ。





2021年末までアメリカの株式相場は一本調子で上昇してきたから、他社株転換債で損失が発生することはなかったけれど、アメリカの利上げをきっかけに、2022年に株式相場は大きく下落して、損失を膨らませる個人が大勢出てきたというわけだね。



2022年には株価が大きく下がりましたけれど、それは異常事態と考えることはできませんか。連動する他社の株価が下がらなければ、高い利率の利息を受け取ることができ、利回りの高い債券なのではないですか。



いや、それが違うんだよ。確かに、利回りが高くなるとしても、それが、高いリスクに見合う水準となっていないことが問題なんだ。リターンが低すぎるということだ。そんな債券を購入するのであれば、単純に、その株式を買ったほうが合理的だと言えるね。



リターンが中途半端に高いけれども、リスクがものすごく高いということですね。それに加えて、手数料が高いということは、長期安定的な運用には向いていませんよね。



そのとおりだね。



実際に販売する証券会社の営業担当者は、仕組債の高いリスクのことを銀行員よりも正しく理解していたはずですよね。なぜ証券会社で販売をストップしようとしないのですか?



それは銀行のほうが、証券会社よりも立場が上だからだよ。証券会社の営業担当者は、銀行員に歯向かうことができないんだ。銀行あっての証券会社だからね。そんな関係なので、銀行員は、グループの証券会社を使って、自分の顧客を対して仕組債を販売するようになったんだ。証券会社の営業担当者がお客様に損失リスクの説明を強調しようとすると、同席した銀行員がそれを睨みつけたらしいよ。



銀行員が横に座っていると、ついつい信頼して買ってしまいそうですね。



そうなんだよ。仕組債がここまで売れたのは、銀行員の信頼性の高さがあったからなんだ。「銀行員から執拗にいい商品だとすすめられ、定期預金のような商品だと誤認して契約した」という証言や、「預金は金利が低いので少しでも役に立ちたい。使う予定のないお金を安全に運用し小遣いが稼げる、それが仕組債だと勧められた」という証言があるんだよ。銀行員は、顧客との信頼関係を活用して、仕組債を売ったということだね。



でも金融商品のリスクに気づかれずに、ここまで来たというのは驚きですね。





銀行員や証券会社の営業担当者は、元本割れになるリスクの説明を後回しにして、利回りの高さばかりを強調して売ってきたんだけれど、2022年になるまで、その損失が発生することはなかったんだよ。ところが、アメリカの利上げをきっかけに、2022年になって株式相場は大きく下落したことから、損失が発生して、大きな元本割れとなる仕組債が続出したんだ。その結果、リスクの理解が不十分なまま仕組み債を買わされたとして、高齢者が苦情を訴えるケースが相次いで、それが社会問題となったんだよ。2023年に入ると、証券取引等監視委員会は、このような売り方が、金融商品取引法の「適合性の原則」に反するとして、地方銀行に対して業務改善命令を出すケースまで出てきたんだ。



騙された高齢者の方々が、かわいそうです。私たち個人投資家は、銀行員に騙されないように注意しなければいけませんね。
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