今回は、退職金に係る税制について解説します。このチャンネルをご覧の方々の中にも、退職一時金の税制が改正されるかもしれない、転職者を増やすような制度に改正されるって世間で騒がれているけれど、もしかして私にも関係あるのかと心配している50歳代のサラリーマンの方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、退職金の税制の問題点について、公認会計士がわかりやすく解説いたします。ぜひ最後までご視聴ください。


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退職金の税金の計算方法

岸田先生、退職金の税制が改正されるかもしれないって聞いたんですが、何がどう変わるんですか?





退職金の税制改正の話題は結構興味深いよ。終身雇用を前提とした退職金の税制に変化があるかもしれないということさ。これは、同じ会社に長く勤めていたら税負担が軽くなるという特典が無くなるかもしれないということだよ。理由としては、政府が労働市場の硬直性を緩和し、人材が成長産業に簡単に移動できるようにしたいからなんだ。



なるほど、現在の退職金の税制はどのようになっているのですか?



現在の制度はね、20年以上同じ企業で働いた場合、退職金の税負担が軽減される仕組みになっているんだ。だけど、これが働き手を一つの会社にしがみつかせ、転職を阻んでしまうのさ。



具体的にどういう計算になるんですか?





まず、退職金を一時金で受け取ると、「退職所得控除」という非課税枠を引いて計算するんだ。控除額は、勤続1年当たり最初は40万円で、20年を超えて勤めると年70万円に拡大するよ。それから、2分の1課税という有利な計算もあるんだ。これは、控除後の金額を2で割って課税対象になる退職所得を算出するものだね。



なるほど、そのうえで所得税がかかるんですね。



そうだね。ここで所得税を計算するときにも「分離課税」というやり方が使われるんだ。これは、その年の給与所得に合算せずに、退職所得だけに所得税率をかけて所得税額を計算する手法だよ。



3つも特典があるのですか?





例えば、30年同じ会社に勤めて2000万円の退職一時金を受け取ったとしようか。
すると、退職所得控除額は、40万円を20年分で800万円、700万円を10年分で700万円、合計で1500万円になるね。それを2000万円の退職金からさし引いた残りの500万円が課税所得になる。さらにこの500万円を2で割ると、課税対象額は250万円になるよね。
これに対して所得税と住民税が課せられるんだ。
実際に計算すると所得税15万円、住民税25万円で40万円くらいだね。2000万円もらって税金が40万円、つまり、税負担率はたったの2%なんだよ。



なるほど、退職金をもらっても、ものすごく税金が軽いですね。



ただし、転職しづらくなるという問題があるんだ。この税制では、転職すると一から勤続年数を積み上げるから、転職する方が不利になるね。同じ会社に長く勤め続ける方が有利になる制度は、終身雇用を前提としているからだね。



転職しないほうが有利なんですね?



そうだね。退職金の税負担だけみれば、同じ会社に勤め続ける方が有利になるんだ。
たとえば、このような2つのパターンを比較してみましょうか。転職しない場合と転職する場合だ。一つのパターンは、新卒でA社に35年間勤め、退職金2430万円受け取った場合。もう一つのパターンは、新卒でA社に15年間勤め、退職金を約430万円受け取った後に転職し、次のB社に20年間勤め、退職金を2千万円受け取った場合を考えよう。



新卒15年で転職する人はけっこう多いでしょうね。





退職金の支給額は同じだとしても、転職しない場合には、所得税と住民税の合計でたったの48万円。これに対して、転職する場合には、合計で137万円になるんだ。これは、転職すると、A社、B社とも勤続年数が20年以下になってしまうので、退職所得控除の金額が少なくなることが原因なんだ。



そうなんですね、だから転職を考えるときには税金のことも考えなければならないんですね。



そうだね。実際に、経験豊富な中堅やベテランが一つの会社にしがみつくと、新しい会社で働くチャンスが失われることになる。このようなシステムは、終身雇用を支える一方で、労働市場の流動性を妨げているんだよ。



それは大きな問題ですね!



多くの日本企業は、従業員の転職を防ぐために退職一時金を支給する制度を設けているよね。この制度は、従業員が会社に長く勤め続けることを促す役割を果たしているんだ。しかし、これが働き方を選択することで税金の有利不利を生み出している。つまり、終身雇用を前提とした制度が、人々の働き方の多様性を制限しているということだね。



アメリカではどういった制度になっているんですか?



アメリカでは、一時金を支払わずに確定拠出年金制度を導入する企業が増えているね。これは、従業員が複数の会社を経験することを前提とした制度で、転職を阻害するようなものではないんだ。
あと、新興企業やZ世代の働き手は、転職を前提に働いているようだね。



日本でもそのような制度が広まっていくと、もっと自由に転職ができるようになるんですね。



まさにそうだ。人々が複数の企業で働くことが一般化すれば、退職金に依存しないで働く人々が増えるだろう。しかし、現在のところ、日本では一部の企業が確定拠出年金制度を導入している程度で、まだ全体としては普及していないんだよ。



終身雇用制度がいいか、転職を前提とする働き方がいいか、悩ましいですね。



そうだね。終身雇用制度は社員の安定した生活を保証する一方で、新たなチャレンジや働き方の多様性を制限するという二面性があるんだ。これからは、多様な働き方が可能で、かつ働き手の生活を安定させる新しい制度が求められる時代になるかもしれないね。



確かに、自分のライフスタイルや価値観に合わせて働き方を選べる社会が理想ですね。



その通りだね。新たな働き方や制度が求められる中で、社員一人ひとりのライフプランを考え、自己責任で行動する能力も必要になってくる。働く人自身が自分のキャリアを設計し、そのための学びやスキルを身につけることが重要になるよ。
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