今回は、相続税の税務調査で指摘されやすい直前引出し現金について解説します。このチャンネルをご覧の方々の中にも、親の相続が発生する前に、現金を引き出して隠しておけば相続税がかからないと考えている方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、認知症の母の銀行口座から14億円を出金していた息子の現金を相続財産に含めるべきかどうかについて裁判で争われた事例について、公認会計士がわかりやすく解説いたします。ぜひ最後までご視聴ください。


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相続税の税務調査で指摘されやすい直前引き出し現金について


今日は私が税理士業務を通じて学んだ事例を紹介しながら、相続税法について学んでいこうか。この事例には、アルツハイマー型認知症のお母様とその長男と次男が登場するんだ。



それは面白そうですね、ぜひお願いします。



まずは状況の概要からお話ししよう。アルツハイマー型認知症を患っていたお母様が、多額の財産を残して亡くなったんだ。相続人である長男と次男がその財産を相続したので、それぞれ相続税申告をしたんだけれど、問題が発生したんだ。



何が問題だったのですか?



お母様が亡くなる2年の間に、次男がお母様の預金口座からATMで1,900回以上も出金をしていたことが明らかになったんだよ。その総額はなんと14億円。しかし、次男はこれを否定したんだよ。



それは大変ですね。何が問題だったのでしょう?



お母様が亡くなった時点で、相続財産が14億円も目減りしていたことが問題だよね。相続税の申告および納税が実際よりも過少になっていたのだから。



それは法律違反なのですか?





そうだね。相続税は相続財産の全額に対してかかる税金だから、その金額を減らすような行為は、相続税法に違反する行為だね。



次男はどうなったのですか?



実はこの事例、裁判になったんだよ。次男は出金の事実を否定したものの、国税局は14億円の返還請求権を相続財産に含めるべきだと主張したんだ。



裁判では何が問題となったのですか?



問題は二つあったんだね。一つ目は、ATMから出金をしたのが本当に次男だったのかということ。二つ目は、もし次男が出金したとすれば、その現金の返還請求権が成立するかどうかということだ。



どうしてATMから出金したのが次男だとわかったのですか?



国税局による調査が行われたようなんだ。ATMが置いてあるコンビニの店長と従業員に次男の顔写真を提示して、「この人物について知っていることを教えて欲しい」と質問したところ、彼らから「毎回のようにATMで用事を済ませた後、食料品を大量に買っていた」という回答が得られたらしいんだ。裁判所がこのコンビニでの申述を認めたことから、ATMからの出金は次男によるものだと認定されんだね。



それでは、どうしてATMから出金した現金について、次男に対する返還請求権が発生するのですか?返還請求というのは「返せ」という権利ですよね。お母様は次男にお金を返してくれなんて思わないはずです。生活費を渡したか、贈与したと考えるほうが自然ではないですか?



次男からの現金の返還請求権という相続財産が存在しているかについては、出金時の母・お母様の状況について調査が行われたようなんだ。お母様はアルツハイマー型認知症と診断されていて、出金時に意思能力が無いことを考慮すると、次男に対して現金の贈与が行われたと言えないというのが事実なんだ。そうすると、お母様は14億円の預金を誰にも渡していない、手元に持ち続けていると考えなければいけなんだよ。この点、次男は、お母様のお金を勝手に出金して、自分のために使ってしまったか、隠し持っていると考えられることから、お母様は次男に対する返還請求権を有するものと認定されたんだよね。



裁判ではどのような結果になったのですか?



最終的に、裁判所は次男に対する14億円の返還請求権が成立し、その金銭債権を相続財産に含めて申告すべきだったという判決をだしたんだ。



それは大変な結果ですね。どのようなペナルティがあったのですか?





次男には、過少申告加算税や延滞税の支払い、それに加えて重加算税というペナルティが課せられたんだ。節税を図ろうとした結果、むしろ税負担が重くなってしまったということだね。



それは悲惨な結果ですね。何が教訓となるのでしょうか?



節税を図るために行う行為が逆に税負担を増やす結果につながることがあるということだ。また、現金の出金記録は税務当局に容易に見つかり、引き出した人も特定されやすいということ。出金した現金を隠しても、相続税がかかってしまうことを覚えておくべきだね。



わかりました、勉強になりました。ありがとうございました。
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