遺言書の効力について考えるためには、まず遺言書の意義や種類を知らなければなりません。また、遺言書は好き勝手に書いて良いものではなく、法律で定められた方式に従って書かなければなりません。一般的な遺言書には3種類ありますが、種類ごとに異なった注意点があります。ここでは遺言書の種類や書き方、効力などを詳しくご紹介します。
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遺言の種類と内容

先生、遺言書に種類があるって、初めて聞きました。どんな種類があるのか、教えてもらえますか?



遺言には、大きく分けて「普通方式」と「特別方式」がありますが、一般的なのは「普通方式」です。遺言に関する話に出てくるのは、たいていこちらですので、ここでは主に普通方式についてご紹介しましょうね。



お願いします。





「普通方式」の遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。1つめの「自筆証書遺言」は、遺言を遺す人が自分で遺言書を作るものです。遺言と聞いて、すぐにみんなが想像するタイプですね。大半の遺言書はこの形式になります。



亡くなった人が自分で書いた遺言ですね。



そうです。2つめの「公正証書遺言」は、公証人となる人に立ち会ってもらって作る遺言で、その効力が高いのが特徴です。



あぁ、第三者が立ち会うからですね。



3つめの「秘密証書遺言」は、遺言を遺す人が自分で遺言書を作り、それを公証人に提出するものです。これら3つの遺言には、それぞれ細かな規定がありますよ。



「特別方式」の遺言についても、ちょっと教えてもらえますか?



そうですね。参考までにご紹介しておきましょうか。
「特別方式」の遺言書には、病気やけが、遭難などによって、死期が迫っている人が遺す遺言がありますよ。それから、伝染病で隔離されていたり、長期にわたる航海で陸から離れていたりして、普通方式の遺言ができない人が遺す遺言もあります。



いろんなケースに対応した遺言が認められているんですね。



えぇ。でも、遺言によって相続に関するすべてを指定できるとは限りません。



えっ? 遺言書があったら、すべて遺言通りにしないといけないという訳ではないんですか?



はい。確かに、遺言によって相続人が受け取る遺産や、相続の割合について決めることができます。けれど、遺産相続には「遺留分」といって、法律で定められた相続人に認められている最低限の遺産の取り分があります。遺言があっても、この遺留分を侵害してはいけないことになっているんですよ。



もし遺留分を侵害してしまったら、どうなるんですか?



遺言で遺留分を侵害された相続人は、遺留分に相当するお金を遺言で遺産を受け取ることになった人に請求できるんです。



そうなんですね。



その他にも、遺言で相続人を廃除したり、未成年の子どもの後見人を指定するといったこともできるんですよ。
相続時に遺言書が出てきた場合の取り扱い



ところで、実際に遺言書が出てきたら、まず何をすればいいんですか?



遺言は、遺言を遺した人が亡くなったその時から効力が生じます。しかし、遺言が偽物ではないか、他の人によって書き換えられていないかなど、偽造や改ざんの恐れがある遺言について、調べる必要があります。これを「検認」といいます。



偽造や改ざんの恐れがある遺言って、どういうものですか?





検認が必要な遺言は、「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」です。亡くなった人の死後に「自筆証書遺言」か「秘密証書遺言」を見つけたら、検認を受けなければいけないことになっています。



検認はどこで受けるんですか?



検認の手続きは、家庭裁判所で行われます。もし、検認する前に勝手に開封してしまったら、5万円以下の罰金を払わないといけなくなるかもしれませんから、注意してくださいね。



勝手に開けると罰金ですか。気を付けます。



少し前までは、遺言は自宅の金庫にしまうなど、自分で保管するしかありませんでした。しかし、現在は「自筆証書遺言」を法務局に預けられるようになったんです。法務局に遺言書を保管しておいてもらえば、遺言書をなくしたり、誰かが遺言書を書き換えたりする心配がありませんよね。



確かに。



誰かが自分に都合の悪い遺言書を隠したり、捨てたりすることもできません。もともと遺言書があることさえ知らず、遺言書が発見されないというリスクもなくなります。



遺言を遺す人にとっては、偽造や改ざんが防げるので安心ですね。



ですから、遺言書が法務局に預けられていた場合は、遺言書の検認は不要になるんです。



もう一つの…「公正証書遺言」が出てきたときは、検認する必要はないんですか?





「公正証書遺言」は、検認する必要がありません。



遺言書の検認を受けたら、次は何をすればいいですか?



遺言書に書かれていることを実現するために手続きをする人、あるいは相続人の代表となった人が、相続の手続きを進めます。相続人の代表となった人が、手続きを司法書士や弁護士に頼むこともできますし、必要書類を行政書士に作ってもらうこともできますよ。



遺言書は一つだけとは限りませんよね? もし、何通も出てきたら、どうすればいいでしょうか?



遺言書は何度でも書けるので、実際に何通も出てくる場合がありますよ。もし、複数の遺言書が出てきた場合は、最も新しい日付の遺言書が有効になります。ただし、最も新しい遺言書で否定や変更をしていなければ、古い遺言書の内容も有効となります。



じゃあ、古いからといって捨ててはいけないんですね。



はい。遺言書を見つけたら、その日付に関わらず、大切に保管するようにしましょう。
遺言の効力が無効になってしまうケース



そういえば、さっき、遺言には細かな規定があるって言っていましたよね。種類によって効力に差もあるとか…。



はい、きまりが守られていないと、遺言が無効になってしまうこともあります。無効になってしまったら、元もこもありませんよね。そういうトラブルを避けるために、どういうときに無効になってしまうのか、確認しましょうか。



お願いします。





まず「自筆証書遺言」ですが、遺言の全文と日付、氏名を自分で書き、印鑑を押していなければなりません。



えっ? 自分で手書きしたものでなければダメなんですか?



パソコンで打ってプリントアウトしたものや、音声を録音したものは、法律上、無効になってしまうんですよ。日付や名前が書かれていないもの、印鑑がないものも無効です。ただし「自筆証書遺言」の財産目録だけは、必ずしも手書きする必要はありません。



財産目録って何ですか?



すべての財産をまとめた一覧表のことです。土地や家、預貯金、株、車など、遺産となるすべてを書いたものですね。このなかには、借金も含まれます。



財産の一覧表以外は、すべて自分で手書きしなければいけないんですね。わかりました。



「公正証書遺言」が無効になることは少ないので、あまり心配する必要はないでしょう。ただし、遺言を遺した人の能力だったり、証人の立ち合いの手続きだったりに疑いがもたれ、これが争点となって裁判が行われたこともあります。



無効になる確率は低くても、ゼロという訳ではないんですね。



「秘密証書遺言」で気をつけるべきポイントは、「自筆証書遺言」とだいたい同じですね。遺言の全文と日付、氏名を自分で書き、印鑑を押し忘れないようにしてください。
遺言書の記載事項と遺産分割協議





遺言書にすべての遺産について書かれているとも限りませんよね? お金も家も田畑もあるのに、家だけはこの人に渡すと書いてあって、ほかの遺産については書かれていないとか。



えぇ、遺言書に一部の財産のことしか書かれていないケースはよくありますよ。そのときは、残りの遺産の分け方について相続人となる人が全員で話し合いをして決めます。



遺言書の内容に納得がいかないときは、どうすればいいですか?



もし、相続人の全員が遺言書に納得していないときは、遺言通りではない分け方をすることもできるんですよ。



話し合いで遺産の分け方が決まったら、どうすればいいですか?



遺産分割協議書というものを作ります。弁護士や行政書士などの専門家に依頼することもできますよ。



もし、話し合いがうまくいかないときは、どうすればいいですか?



そのときは、それぞれの相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求できます。



家庭裁判所に相談すればいいんですね。



相続人の全員が、遺言書に不満を抱いているわけではないってこともありますよね。そういう場合は、遺言書で遺留分を害されて不満に思っている相続人だけが家庭裁判所に行って、遺留分を侵害された相当分の金額を請求すればいいんです。



思い通りの相続がかなわないときも、自分の権利を主張することはできるという訳ですね。



遺言を積極的に書きたいと思う人は、あまり多くはないでしょう。
しかし、いざ書こうと思ったときに遺言に関する知識がないと困ります。また、残された人たちも、遺言が出てきたときの対処方法を知っていれば、遺産相続を円滑に進めることができます。
そのためにも、いまのうちから遺言について知っておいても損はないでしょう。
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