今回は、従業員への事業承継について解説します。このチャンネルをご覧の方々の中にも、中小企業の経営者を支援する立場にいて、経営者個人のお悩み相談を受けたものの、どのように支援すればよいのかよくわからないとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、従業員承継の基本的な考え方、株式と経営者保証の引継ぎ、株式評価額の引下げ、不動産の切り離しについて、公認会計士がわかりやすく解説いたします。ぜひ最後までご視聴ください。


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従業員継承の基本的な考え方


私の父が会社を経営しているのですが、後継者がいなくて困っています。長女である私は会社の経営者になるつもりはありません。このような場合、どうすればよいのでしょうか。



その場合は、従業員へ承継するか、同業他社へ会社を売却するしかないね。



そう言えば、従業員の中村さんに経営を引き継いでほしいと言っていたことがありました。従業員へ事業承継することも可能なのでしょうか?



それは可能だよ。従業員への事業承継でも、検討すべきことは親族の場合とほとんど変わらない。いずれにしても、事業承継する前に、事業の現状を把握して、存続と成長が可能かどうか検討する必要があるんだよ。



父の会社は繁盛しているようなので、事業性には問題ないと思います。中村さんはトップ営業マンとして活躍している人です。彼ならば次の社長として最適ですよね。



いや、そうとも言えないんだ。優秀な営業マンであっても、戦略立案や経営管理といった社長の仕事ができるかどうかは別問題なんだよ。何より、経営管理の仕事なんて大嫌いだという人が意外と多いんだよ。



従業員へ事業承継の場合、会社の株式はどうなるのでしょうか。
タダで渡すことになりますか?



そういうわけにはいかなんだ。株式は有償での譲渡となるので、後継者は株式を買い取らなければいけないんだ。
株式と経営者保証の引継ぎ





買取り資金はどうするのでしょうか?自己資金が足りなければ、銀行から借りることになりますか?



そうだね。銀行からの融資が必要となるだろうね。それに加えて、借入金の経営者保証も引き継がなければいけない。これが重大な問題となるね。



借入金の金額を知ったら事業承継を拒否されるかもしれませんね。



その通りだね。だからこそ、借入金の状況は早い段階で後継者に知らせておくべきだね。
株式評価額の引下げ



もしかすると、父の会社の株式の評価額はとても高いかもしれません。買い取ることができないほど高い評価額だとすれば、どうなるのでしょうか?





その場合は、買い取りが難しくなるね。その場合の解決策は2つあって、一つは株式評価を下げてから譲渡する方法だ。余った現金預金や生命保険の解約返戻金を現経営者に退職金として支払うか、配当金として分配すれば、株式評価額は低下するんだ。



なるほど、株式の評価額を引き下げることができるんですね。





もう一つの方法は、会社全体ではなく、事業だけを切り出して譲渡する手法、すなわち事業譲渡だ。余剰資金や生命保険契約は会社に残して、営業用資産と負債のみ後継者へ譲渡するんだ。この手法を用いれば、従業員が手を伸ばせる金額まで譲渡価額を抑えることができるよ。
不動産の切り離し



父の会社の株式の評価額が高いのは、不動産を所有しているからだと思います。その場合、どうすればよいのでしょうか?





本社ビルや工場のような大きな不動産がある場合は、株式の評価額が高くになるだろうね。そういった状況でも事業譲渡が有効だね。不動産は会社に残して、営業用資産と負債のみを後継者へ譲渡するんだ。



その場合、不動産はどうなるんですか?



不動産は譲渡の対象から外されるから、現経営者の手元に残るんだ。そうすると、不動産賃貸業を営む法人が残されることとなるね



ところで、信用力のない従業員が個人で非上場株式を買うために、金融機関から融資を受けることは可能なのでしょうか?





その点は難しいよね。事業承継のための資金が必要となる場合、日本政策金融公庫の国民生活事業の融資に頼るしかないだろうね。最大で7,200万円までの貸してもらえるんだ。加えて、中小企業経営承継円滑化法の金融支援の適用も受けられる。これによって、特例利率が適用され、有利な条件で借り入れが可能になるよ。
所有と経営の分離



父の株式は譲渡せずに持っておき、代表取締役の地位だけを従業員の中村さんと交代するのはどうでしょうか。





それはよくあるケースだね。子どもが事業を引き継がなかったため、甥っ子や孫が大人になるまで株式を持ち続けようとするケースだろうね。その場合は、株式承継が先延ばしされることになるね。



そうすると、その間の経営者は誰になるんですか?



その期間だけ従業員が経営者となるんだ。しかし、株式を持っていないから、雇われのサラリーマン社長ということになるね。親族内で後継者が現れるまでの間は、従業員や外部招聘の専門人材が、リリーフとして『中継ぎ』となるわけだ。



それでは、株式の所有者と企業の経営者が分離してしまうことになりますよね?



その通りだね。中小企業では「所有と経営の一致」が原則だけれども、このケースでは一時的な「所有と経営の分離」が発生してしまうんだ。しかし、それには深刻な問題が伴うんだよ。株主の立場からすれば、経営していない会社の責任を負うことが問題なんだ。サラリーマン社長は、失敗しても失うものがないから、ハイリスクな投資に走ろうとするだろうね。一方で、サラリーマン社長の立場から見ると、経営努力の成果としてお金を稼いだとしても、それは株主の利益となって、個人の利益に直結しないことが問題なんだ。結果として、サラリーマン社長には経営努力を行う動機が生まれてこないんだよ。



わかりました。従業員承継は難しそうですね。
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